辞めさせるということ

 先日顧問先の事業場内で、窃盗事件が発生した。話を聞くと複数ある事業場の中で、この事業場だけで3回目とのことである。2回目に発生した事件で、中堅の職員の犯行であることがわかった。このときは、不問としたそうだが事件が再発した。本人は認めていないが、どうしたらいいものかという相談だった。

 事務所で事務作業をしていた時、電話で解雇されたという相談を受けた。話を聞くと解雇理由ははっきりしなく、「うちの仕事に向いていないから」というものだそうである。どうも事業主の感情で判断したように思える内容だった。

 顧問先の事件は私見であるが、犯行が分かった時点で懲戒解雇なり諭旨退職なりの処分をすべきであったと考える。職場でのトラブルは、ある程度話し合いを持って解決を促すことを勧めるが、金銭の着服は労使関係だけでなく事実発覚だけで従業員同士の信頼関係を崩してしまうからである。この会社の社長は懐の深い方で、従業員のことをよく考えている方であるが、企業活動において時には冷徹に判断しなければならないこともある。

 後者の件は相談者の話だけで判断することは危険ではあるが、果たして解雇すべき事由があったのだろうか疑問である。解雇する際、労働基準法では解雇の予告を30日以上前に行うことが必要である。それができない場合、予告日数が足りない日数分について解雇予告手当を支払う必要がある。解雇予告(または解雇予告手当)を知らない事業主もいるが、それさえ行えば問題ないと考える事業主がいることも確かである。労働基準法は解雇の手続きを定めただけであり、解雇自体が正当なものかどうかを定めたものではない。解雇が正当か不当かの最終的な判断を求めるのであれば、裁判ということになってしまう。

 事業主が人を雇い入れるということは、非常に多くのリスクを伴うということに気づいていないことが多い。採用するかどうかを決定することは事業主にあるので、安易に採用を決めないで欲しいと思う。事業主が悪、労働者が善という考えは全く持っていない。むしろ逆のケースの方が多い。しかし、民法その他労働法は労働者の保護に重点を置いている。判例や裁判例も労働者側に有利なことが多い。また、労働裁判に強い弁護士も労働者側の弁護に強い弁護士がほとんどで使用者側に強い弁護士は皆無である。

 解雇に関する相談の助言や解決方法はいくらでもできるが、相談者が満足できるものになるかは分からない。事務的に手続きを話すだけなら楽ではあるが、人と人との関係なので簡単ではない。解雇の相談というのは、いつも何か引っかかってすっきりした感じがしないのは私だけだろうか。
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