賃金控除協定

 コムスンの介護報酬の不正請求から、事業譲渡にまで問題が発展している。私は、人のお世話など出来ないのでヘルパーの方々には頭が下がる思いである。しかし、介護報酬が安いため賃金は平均より安いと思われる。どうしても安い労働力を使わないと経営が成り立たないため、パートに頼らなくてはならない。それでも一定人数は常勤労働者がいなければならないので、実態のない従業員の名前を使い介護報酬を受け取るということがおきてしまう。
 また、ケアマネージャーの受験資格は実務経験が必要であり、介護福祉士は養成の学校を卒業するか3年以上の実務経験を経た上で国家試験を受ける必要である。一定の事業所には配置しなければならないが、こちらも人手不足である。社会保険労務士は、直接介護保険の手続きをすることは少ないが40歳以上の健康保険の被保険者は介護保険料も合わせて徴収するのでまったく無関係ではない。もう一度、制度設計を見直す必要があるのではないだろうか。

 コムスンのグループ会社のグッドウィルの日雇派遣の費用徴収も問題になっている。1日勤務するたびに、「データー装備費」と称して200円天引きする。賃金から天引きが認められているのは、税金や社会保険料くらいで他は労使協定がないと天引きできないことになっている(労働基準法第24条)。例を挙げるとすれば、昼食の弁当代なども原則天引きできないのである。厳密に言えば、本人との個別同意があっても労使協定がなければ違法ということになる。グッドウィルの場合、日雇で従業員が不特定になると労使協定を締結することは困難であるが個別同意があったかどうか疑問である。以前、私も同社の日雇派遣の方から相談を受けたことがあり毎回200円ずつ天引きされるということだった。何の費用なのか、必ず確認して納得がいかないのであれば返還を申し出てそれでも応じない場合、所轄の労働基準監督署に申告するよう話をしたことがある。
 報道からこの200円は通信システムの費用や事故があったときの保険だそうである。私見だが、この会社の商品は労働力であって(大変失礼な言い方だが)その商品から費用を徴収するのはおかしいのではないだろうか。企業の人材募集のための広告も必要経費として認められるのであるから、その面からしても疑問である。また、保険料の徴収という説明も疑問に思う。従業員が過失で品物や機械を破損した場合、企業は従業員に対して損害額の請求をすることは可能である。しかし、故意や重過失ではない限り全額従業員負担は難しい。よくあるケースでは、自動車の運転中の事故による破損も、過去の判例で損害額の4分の1程度の請求は認められた例がある。残りは、使用者責任ということである。はじめから保険料を徴収することは、「派遣する労働者は事故を起こすかもしれませんよ。」「信用できる労働者ではないですよ。」ということを言っているのだろうか?

 労働の問題は、必ずしも使用者が一方的に悪いということ言えない。しかし、労働者を出してピンハネして利益を得るという仕組みは昔からあり、裏社会の資金源になることもある。そのために法律による規制があるのだが、この問題に限らず多様化している社会なので様々な問題があるのは事実である。今回の天引きの問題は、明日の仕事があるかわからない人たちなので、なかなか声を上げることが出来なかったことだろう。日雇派遣に従事している年代が30歳前後で、一般企業で言えば仕事を理解して最前線で働いている年代である。労働技能の伝承という意味からも、解決しなければならない問題でもあると思う。