労災を認めないから退職

 先週、顧問先から腰痛の業務上災害の相談を受けた。約2ヶ月前に入社した方で、介護の業務で腰痛が悪化したので労災申請して欲しいということであった。腰痛は、通常の動作でも起こりうるものなので認定は難しいところがある。しかし、業務上で発生したものであれば労災の可能性を考えなければならない。

 腰痛には、腰部捻挫、腰部打撲、脊椎変形症、椎間板ヘルニア等がある。災害性腰痛と非災害性腰痛があり、この労災認定については、業務起因性の判断が非常に困難であることから、厚生労働省が通達で業務上腰痛の認定基準(S51.10.16基発第750号)を定めている。

 災害性腰痛とは、突発的な出来事が原因となった腰痛で

1.腰部の負傷又は腰部の負傷を生ぜしめたと考えられる通常の動作と異なる動作による腰部に対する急激な力の作用が業務遂行中に突発的なできごととして生じたと明らかに認められるものであること(業務中の「ぎっくり腰」など)

2.腰部に作用した力が腰痛を発症させ、又は腰痛の既往症若しくは基礎疾患を著しく増悪させたと医学的に認められるものであること
以上の2つの要件を満たし、治療が必要と認められたものが労災給付の対象なる。


 非災害性腰痛とは、慢性的な疲労蓄積が原因となった腰痛で

「重量物を取り扱う業務等、腰部に過度の負担のかかる業務に従事する労働者に腰痛が発症した場合、当該労働者の作業態様、従事期間及び身体的条件から見て、当該腰痛が業務に起因して発症したものと認められ、かつ医学上の治療が必要なものについては、業務上の腰痛と認める」とされている。

 腰部に過度の負担のかかる業務(次のような業務)に比較的短期間(おおむね3か月から数年以内をいう。)従事する労働者に発症した腰痛をいう。

1.おおむね20kg程度以上の重量物又は軽重不同の物を繰り返し中腰で取り扱う業務

2.腰部にとって極めて不自然ないし非生理的な姿勢で毎日数時間程度行う業務

3.長時間にわたって腰部の伸展を行うことのできない同一作業姿勢を持続して行う業務

4.腰部に著しく粗大な振動を受ける作業を継続して行う業務

 1の例としては「港湾荷役」、2の例としては「配電工による柱上作業」、1と2の複合例としては「重症心身障害児施設の保母・大工・左官」、3の例としては「長距離トラックの運転」、4の例としては「車両系建設機械の運転」があげられる。

 比較的短期間で発症する腰痛は、主として、筋、筋膜、靱帯等の軟部組織の労作の不均衡による疲労作業から起こるものと考えられている。そのため、疲労の段階で早期に適切な措置(体操、スポーツ、休養等)を行えば容易に回復するとされている。しかし、労作の不均衡の改善が妨げられる要因があれば療養を必要とする状態となることもあるため、比較的短期間で発症する腰痛についても業務上の疾病として取り扱うこととされている。


 長期間で発症した非災害性腰痛ということもあり得る。重量物を取り扱う業務又は腰部に過度の負担のかかる作業態様の業務に相当長期間(おおむね10年以上)にわたって継続して従事する労働者に発症した慢性的な腰痛をいう。

「重量物を取り扱う業務」とは、

1.おおむね30kg以上の重量物を労働時間の3分の1程度以上取り扱う業務

2.おおむね20kg以上の重量物を労働時間の半分程度以上取り扱う業務
をいう。

 また、「腰部に過度の負担のかかる作業態様の業務」とは、「重量物を取り扱う業務」と同程度以上腰部に負担のかかる業務をいう。

これらの業務に長年にわたって従事した労働者に発症した腰痛については、胸腰椎に著しく病的な変成(高度の椎間板変性や椎体の辺縁隆起等)が認められ、かつ、その程度が通常の加齢による骨変化の程度を明らかに超えるものについて業務上の疾病として取り扱うこととしている。

 今回、介護の業務を行う前に既往症として腰痛があり、突発的な原因もなく業務(かどうかははっきりしない)により症状が悪化した場合は業務上災害には当たらない。直接の原因が業務に起因していないものも労災として認定してしまうと、事業主責任は無限に広がってしまう。労災の認定は会社や社労士がするわけではないので、自分で申請することが可能である。本来は被災者が請求するものだが、会社の証明等が必要なので会社が手続きすることが多いと思う。

 その方は、説明に納得できず突然退職してしまい資格喪失の書類を作成した。会社も私も、すっきりしない形の解決になってしまった。